森絵都『風に舞いあがるビニールシート』
『器を探して』カリスマパティシエの秘書の話。どうしてもケーキに勝てない、というところがmayumiさんみたいだと思った。
あと、主婦でありながら、犬のボランティア活動費を稼ぐためにホステスのバイトをする主婦の話、『犬の散歩』の犬ばかの部分。
「犬は庭につないでおけ」とにべもなかった義父が、
義母の力添えもあって次第に「玄関に入れておけ」と軟化し、
やがてはそれが「廊下までならいい」になり、
「居間だけは許すが座布団には載せるな」になり、
「犬のベッドでも置いてやれ」になり、
「ビビのおもちゃを買って来たぞ」になり、
「よちよちビーたんこっちにおいで」になり…。
ある日、義母との雑談中に姿を消したビビを恵利子が探していると、義父母の寝室のベッドの上に丸くなっている背中が見え、ちょうどその上に義父が自分の膝掛けをかけてやっているところだった。
ふりむき、恵利子と目を合わせた義父のなんともばつの悪そうな表情を思いかえすたび、恵利子は今も笑いと涙を禁じ得ない。
うちといっしょ!
家の外の犬小屋→玄関→廊下→台所・茶の間→2階の廊下→2階の部屋→2階の父の寝室のベッド、といつのまにかコンプリートしていたジョリーといっしょ。
自分の犬を美人というところ、「ヴィヴィアン・リーを彷彿とさせる」とか「若い日の原節子」とか犬ばかっぷりに共感。
恵利子の信念?が分かるところも好き。
ビビの食事に気をつけるように言われて、専用の缶詰を処方されました。
一日、八百円です。毎日毎日八百円。正直、痛い出費でした。
最初は渋々払っていました。でも、いつのまにかそれが私の牛丼になっていて…。
レストランでランチをするお金があったら、ビビの二日分の缶詰を買える。
エステに払うお金をまわせば二十日分の缶詰を買える。
そんなふうに考えるようになったとたん、それまでぐらぐらしていた毎日が、なんだか急に、なんていうか、信頼に足るものに思えてきたんです。世界を…っていうか、自分を、少しだけ信じられるようになったっていうか。
表題作の『風に舞い上がるビニールシート』は、国連で難民事業に携わる職員・里佳の話。
上司で元夫のエドの信念は「風に舞い上がるビニールシート」、つまり難民を少しでも多く救うこと。その信念を理佳は理解できず離婚していた。エドがアフガンで死んだという知らせを受けて、理佳は2人の生活を振り返っていく。
印象に残ったところは、体が触れていると眠れないエドが、ワニの手袋をしたまま寝てしまい、理佳はワニの手袋をそっと外して、かわりに自分の手を絡ませるところ。
空が白みだした頃に目覚めたエドはそんな理佳に気づいてきょとんとし、それから自分の左手に視点をすべらせた。そこにはまだ理佳の右手が握られていた。
理佳は多少ばつの悪い思いでいたずらっぽく微笑んでみせる。
「ワニだと思ったでしょう」
エドは無言で理佳の手を引きよせ、その指先にキスをした。
恐らく今までで一番優しいキスを。
「いや、理佳だとわかっていた」
その瞬間、理佳はエドを出会って以来最も大きな幸福に包まれ、声をあげて泣いた。
物語を最後まで読み、エドの幼少期を知ってから読み返すと「最も大きな幸福に包まれ」の部分が染みました。
おすすめです。
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